チェルノブイリ事故によるブラウントラウトおよびチャー(イワナ属)の被曝について、英語で出版されている学術論文を3本読んでみました。まとめると以下のようになります。
・放射能による環境汚染は欧州各地に広がり、イギリスや北欧に生息するブラウントラウトおよびチャー(イワナ属)が被曝し、サンプルとして採取され、2~3年間検査された。
・チェルノブイリ事故以前のトラウト体内の放射性物質は15ベクレル/kg(wet weight)であった。これは、核実験や放射線を使用する医療施設から大気中に放出され拡散した放射性物質によるもので、これが平常時の数値だと考えられている。(ちなみに既に解禁されている渡良瀬の秋山川では42ベクレル/kgだったので、平常値とは言えないかもしれない。)
・半減期の短い放射性ヨウ素や放射性セシウム134は、時間経過を1要因とした調査の対象としては意義が薄いので、対象から外されている。一方、半減期の長い放射性セシウム137に注目することの重要性が強調されている。
・天然魚(wild trout)の方が放流魚(stocked trout)より放射性物質が多く検出された。このことから、トラウトの内部被曝は、水質よりも食物連鎖によるとの分析がなされている。(水生昆虫や陸生昆虫などの餌が被曝しているのが主要因、という示唆である。)
・ブラウントラウトの方がチャー(イワナ属)よりセシウム検出量が多かった。その理由は、消化のスピード(食べる量や消化器の長さ、消化の時間)の違いにある、という推測がなされている。
・魚の大きさとセシウム検出量との間には有意な相関関係は見られなかった。
・事故後に検出されたイギリスと北欧トラウトのセシウム137は350~2,000ベクレル/kg。スェーデンの禁漁基準は現在1,500ベクレル/kgである。(事故後は暫く300ベクレル/kgであった。)なお、これと比較すると日本の基準値 (100ベクレル/kg) は厳しいものだが、渓魚を「ゲームフィッシュ」と捉えているか「水産物」と捉えているかの違いもあるので、杓子定規には比較できない。
・トラウト体内の放射性セシウム137は事故後2年で減少に転じている。「2年」という数字は、半減期が30年程度であることからすると、短い気がするが、30年というのは物理的な半減期であり、生体内の半減期は70日とされている。(生体の浄化・排泄作用などが要因。)しかしその一方で、汚染された食物連鎖によって暫くセシウム摂取が続くため、セシウム検出量が減少に転じるのに2年かかっているようだ。(生体内におけるセシウム137の半減期については
ココを参照しました。「
137Cs × Biological 」 の数値をご覧ください。物理的半減期との差異も明示されています。)
※参照した論文の1つは
ココからアクセスできます。